TRIGGER スタッフコラム Vol.5
- TRIGGER FES
- 2019年9月29日
- 読了時間: 4分
今年でもう20回夏を経験したわけだけど、今年は飛び抜けて夏の存在感が薄かった。
暑い期間が短かったというのもあるし、花火やらお祭りやら海といった、夏!という行事を1つもしてないからかもしれない。それにしてもここ2、3年で、明らかに私の中から夏が薄まってきている。あぁ暑いなあしんどいなあとは毎年思うけど、どうも暑いだけで、夏が来たという実感が湧かないのだ。このままでは、私が社会人になって、日常に疲れて大学生の夏を思い馳せた時にただの虚無しか残らない。微々たる時間でさえ懐かしさに溺れられない夏を残すのは非常にまずい。ということで、夏の正体を考えてみた。
記憶は匂いが結構重要な役割を果たすことが多い。そこで気付いた。最近の日焼け止め、あの日焼け止め独特の匂いはどこにいってしまったのだろう?小学生の頃、私はあの匂いが得意じゃなかった。そもそも日焼け止めが嫌いだった。皮膚を覆い隠すように新たな膜を作っているようで気味が悪かった。数年前の日焼け止めは振るとカラカラ音がした。最近の日焼け止めはカラカラ振ってから塗るタイプのものは随分と姿を消したし、独特の匂いもない。もしくは小洒落たフローラルの匂いなんかしたりする。そうじゃない、日焼け止めはあの匂いだから良かったんだ、と今になって思ったりする。教室に充満する、日焼け止めと制汗剤の匂い。そう、制汗剤!中高生の香水。どの匂いだろうと鼻を過剰に刺激して、やはりこれも得意じゃなかった。けど夏の2大匂いのコイツらが、大学生になって鼻を通過する機会がぱたりと減った。日焼け止めに関しては匂いそのものが失われつつある。あぁ、これは確かに夏の到来を感じられないわけだ。 夏は匂いだけじゃない。空気もそう。

私は6年間(中高)自転車通学だった。栃木の佐野は非常に暑い。でも、田んぼ道は時折ひやっとした風が吹く。田んぼに張られた水が風に乗ってくるからだ。私はこれが大好きだった。特別冷たくもないし、そのひやっとした空気が継続して吹くわけでもない。本当にたまにふわっと頰を撫でられる程度。でもそれが心地よかった。田んぼに張られた水に映る夕日も好きだった。まだ青い稲の合間合間に映るオレンジがすごく綺麗だった。今は自転車にも乗らないし(パンクしてる)、田んぼ道は見る機会もあまりない。 私は夏がすこぶる苦手だ。とにかく暑いし、虫が生き生きしてるから。だから思い返したところで夏らしくて特別な出来事は出てこないだろうと勘ぐっていた。ところが考え出したらわんさか溢れてきた。 小学生の頃の私は夏休みに学校に行ってプールカードの項目をコンプリートする事に全てをかけていた。そしてあの謎の色石。プールの底に落ちた色石をどれだけ多くとれるかという単純な遊びでも決して負けられない戦いだった。それが終わると近くの神社の鯉に麩菓子を与えて、愛想の無い婆さんがやってる駄菓子屋でとっておきのお菓子を買う。なんて仕打ちだ…と思っていた朝のラジオ体操も最終日にはクリームパンがもらえて、幼い私はまあいいかと納得していた。ちびまる子ちゃんの夏の一日みたいな、穏やかで緩やかで最高の夏だったなあと、今は思う。
中高生になると、熱血!全力部活!となった。中学は剣道部だった。道場のにおい、床の感触、汗が目に入ってしみたこと、窓の隙間から吹く頼りない風でも本当に気持ちよかったこと、それらは今の私の夏の記憶であり、中学時代の私の夏そのものだった。
高校になるとボート部に入部した。毎日練習後、プロテインと温い牛乳1リットル飲まされたことが今一番初めに思い出したのことがなんとも言えない。夏の話から部活のしんどかった話になってきたのでこの辺でやめておくが、こうして思い返してみて気が付いた。私のこれまでの夏は、限られた範囲内で無意識に楽しみを見つけたり、与えられた環境の中で全力を尽くしていた。
大学生となり、時間も環境も全て自分で選択できるようになった。すごく、自由になった。そこで私は見失ってしまったのだと思う。学生の特権を見事に使い損ねて、何でもできる、という環境の中で、何にもしない、という選択を無意識にしている。だからきっと夏の到来も感じることが出来なかったのだろう。今回このタイミングでコラムを担当しなかったら、もしくは「豚キムチの全て」「チャーハンへの想い」とかいう題材でコラムを書き進めていたら、この私の大きな過ちに気付くことは出来なかった。危ない。本当に危なかった。 これからの私は、あぁ 夏が来たなあと感じることが出来るだろうか。いや、感じなくては困る。でもこれから先、ちょっと辛いことが重なったり、凄まじく悲しい事に襲われて、夏の到来に鈍感になってしまった時は、このコラムを読みに戻ってこようと思う。これまでの何気ない夏の日常の記憶が、私にこうして大切なことを気づかせてくれたように、この夏もいつかどこかの自分を救うと思う。
今年の夏ももう終わりをむかえようとしてる。
本当に、良い夏だったと、そう思う。
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